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福岡地方裁判所 昭和43年(ヨ)525号 決定 1968年7月08日

申請人 大木生児

被申請人 八幡製鉄労働組合

主文

申請人の申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

第一当事者双方の申立

一  申請人

「被申請人が申請人に対してなした昭和四三年六月一二日を起算日として一年間の権利停止とする旨の処分の効力を本案判決の確定に至るまで仮りに停止する。申請費用は被申請人の負担とする」旨の裁判を求める。

二  被申請人

主文と同旨の裁判を求める。

第二当事者間に争いのない事実

一  申請人の地位

申請人は被申請人(以下組合ともいう。)の組合員であり、昭和四一年八月一日から昭和四三年六月一一日までは組合の執行委員会を構成する執行委員の一人であつた。

二  申請人に対する統制処分

組合は、昭和四三年六月一一日、申請人を翌一二日から起算して一年間の権利停止とする、権利停止は組合規約第六条第三号の「規程の定めるところにより役員その他、組合の代表に対する選挙権および被選挙権をもつこと。」を停止するものとする旨の統制処分(以下本件統制処分という。)に付した。

三  組合員に対する統制手続の概要

組合は規約第四四条、統制規程第三条に基づき統制委員会を設置し、統制委員会は調査委員会、裁定委員会及び特別裁定委員会から成り立つている。

組合員が統制規程第三章に規定する行為をした疑いがあることを知つた者は同規程第一四条により機関(中央委員会)に提議し、これを受けた中央委員会は当該統制事件を調査委員会へ付託する。調査委員会は具体的な事実につき調査を行ない、調査の結果を中央委員会に報告する(同規程第三四条)。

中央委員会が右調査報告を審議した結果、告発することを決定し裁定委員会に提訴する場合には、調査委員会から裁定委員会へ提訴状を提出し、裁定委員会はこの提訴を審査して判断を下す。

中央委員会は裁定委員会の判断についてその可否を決定し、これを可決したときはその判断が除名または脱退勧告の処分であるときを除き確定する。

四  本件統制処分の経過

昭和四三年四月二七日の第五回中央闘争委員会(闘争態勢確立の期間中は中央委員会が中央闘争委員会に切り替えられる。以下の執行委員会についても同様)において、闘争執行委員会から「大木執行委員の機関決定違反について」という調査委員会への調査付託事項が提案され、同中央闘争委員会は右提案を容れて調査委員会へ調査付託することを決定した。

調査委員会は調査の結果同年五月二五日第四二回中央委員会(春闘の妥結により闘争態勢が解除され、本来の中央委員会に戻つた。)に申請人の統制違反に関する調査報告書を提出し、同中央委員会は右報告に基づき裁定委員会に告発することを決定した。

裁定委員会は同月二七日調査委員会から提訴状を受理し、統制規程の定めるところに従つて審査し、判断を下した。

裁定委員会の判断は同年六月一一日判断書をもつて中央委員会に報告され、中央委員会は同日右判断を可決した。その結果、裁定委員会の判断は確定し、前記二の処分となつた。

五  裁定委員会の判断

裁定委員会の判断書には「三、処分されるべき事実」として、「八幡製鉄労働組合執行業務統括者(この場合佐々木書記長)の許可なく、昭和四三年三月二五日、北九州市戸畑区新池町の北九州市庁舎前で行われた北九州市合理化反対のための集会に参加した」と記載されており、右事実に対し統制規程第二三条第一三項「その他、規約または機関の決定に反して組合の秩序を紊した者」を適用し、同条第一四項第四号により権利停止一年間と判定した。

六  組合の機関決定

組合は第四〇回中央委員会において「北九州市議会をめぐる諸対策について」と題する決定を行なつたが、その中に市政問題に関する地域共闘について

<1>  北九州市再建合理化に反対する諸共闘会議への参加及び共闘参加の要請が当組合に対し、当該組合から直接に、また地区労を通じて行なわれているが(市職労発―「北九州市合理化反対の申し入れ」、県春闘共闘議長発―「北九州市合理化粉砕共闘会議の出席要請について」)、

<2>  北九州市政の合理化に反対する諸共闘会議及び署名を含む諸行動については参加しない。

<3>  春闘段階における統一行動が予想されるが、統一行動の原則は経済闘争を主目的にしたものでなくてはならない。従つて、北九州市政の合理化問題が集会の中心スローガンとなる諸集会には参加しない

との一項がある。

七  申請人の行動

申請人は、昭和四三年三月二五日、北九州市戸畑区新池町の北九州市庁舎前で行なわれた北九州市合理化反対のための集会に参加した。

第三当裁判所の判断

一  疎明資料によれば、次の事実が認められる。

(一)  北九州市政合理化に対する組合の態度

組合は、すでに昭和四一年四月一二日の第二回中央闘争委員会において、当時給料表分離問題をめぐつて紛糾していた北九州市の労使紛争につき、市職員労働組合の行動は市民の存在を全く無視し、正常な労働運動の限界を逸脱した不法行為であるとしてこれを支援しないとの方針を決定した経緯があり、昭和四二年二月谷市長の就任後一連の行政合理化策が次々と打ち出されていくにつれて、地域行政に対する取組みを重視し、同年一二月七日の第五回中央闘争委員会において、参加要請のあつた「一二月八日病院、水道合理化反対市民大集会」には参加しない旨を決定するとともに、地域対策専門委員会を設置し、研究調査活動を進めた。このような背景のもとに、昭和四三年三月九日の第四〇回中央委員会において決定されたのが前記第二の六の「北九州市議会をめぐる諸対策について」であつた。

右決定の基本的態度は、三月市議会における議案(病院事業の再建に伴う二五八名の人員整理、給料表の改訂、勤務時間の延長など市職員の労働条件に関するもののほか、市民税、公共料金の値上げなど多数)については旧五市合併以来の特殊条件、市政における超党派性の必要等から市政の合理化及び再建上やむを得ない措置であると判断し、今後市政に対し市民優先の政策を要求していくというものであり、その一環として二月下旬ないし三月上旬ごろ参加要請のあつた市政合理化に反対する地域共闘には参加しないとの前記態度が決定されたのであつた。ちなみに、四三、〇〇〇人の組合員のうち大多数が北九州市民である組合の動向は他の労働組合等から注目されていた。

(二)  申請人の行動

申請人は組合の執行委員三九名中の一人で書記局組織部に所属し組合業務に専従すると同時に、日本社会党員として党北九州総支部に所属していた。

右支部は北九州市合理化粉砕支援共闘会議を支援する方針をとつており、合理化関係の議案が市議会の本会議に上程されることが予想された同年三月二四日(日曜日)、党員に対し北九州市議会に結集するよう連絡、指令した。申請人は、この連絡、指令を受けて、同日午前一〇時ごろ同市議会前に至り、そこでの集会その他の行動に参加し、同日は徹夜で坐り込んだ。翌二五日は月曜日で本来組合に出勤すべき日であつたが、情勢が緊迫していたためそのまま同所で行動を続けることとし、組合にその旨を連絡しなければいけないとは思いながら機会をとらえないでいるうち(もつとも連絡をしても前記第四〇回中央委員会決定のあつた関係上組合の承認を得られないであろうことは申請人も承知していた。)、同日午前一一時五五分ごろ、市議会玄関入口附近において公務執行妨害等の容疑で警察官に現行犯逮捕され(この状況がテレビで報道されたため、後に中央委員会で取り上げられることとなつた。)、翌二六日午後六時四〇分釈放された。右二四日、二五日を通じて、申請人は党支部の指示により社会党の腕章をつけて行動しており、被申請人組合の役員あるいは組合員であることを特に明らかにするような行為には及んでいない。

なお、申請人はこれより先の三月一七日(日曜日)に八幡高炉台で開かれた「北九州市合理化粉砕五万人集会」に参加し、翌日佐々木書記長から注意を受けた経緯がある。

(三)  欠勤の取扱いと出勤状態

組合書記局では、全員専従である執行委員の勤務関係については会社における取扱いを準用していた。すなわち、休暇あるいは欠勤(組合では「欠務」と呼んでいる。)の場合には事前に組合書記長に届け出るのを原則とし、やむを得ないときには事後すみやかに届け出ることも認められていたが、悪意と思われるものについてはこの取扱いをしなくてもよく、また、慣行的に所属の専門部長(申請人の場合、組織部長)に届け出ることも行なわれていた。いずれにしても、申請人は二五日の欠勤を事前には届け出ておらず、二六日に申請人の妻を通じて「身体が不調なので、二、三日休む。」旨の電話連絡が組合にあつたが、書記局では事後の届出として有効と認めず、「事故欠」として取扱つた。なお、申請人は負傷したため二七日まで欠勤した。

ところで、申請人は一月下旬から二月上旬にかけて一五日間の休暇をとり(うち一〇日間は診断書提出)、有給休暇を全部使い果したため、二月中旬には佐々木書記長から出勤について注意を受け、その後三月九日の中央委員会において申請人の出勤状態が問題になつた。さらに、三月三〇日の書記局会議において、春闘の決戦段階を控え、全執行委員に対し特別の事情がない限りは休暇を認めない旨の指示がなされたが、申請人は四月四日から六日まで事前に届け出ずに休暇をとつた。

(四)  組合業務の状況

三月二五日当時組合としては春闘の重要な段階に立ち至つており、執行部は前年スト権の確立に失敗した苦い経験と反省から、四月八日から行なわれる予定のスト権批准投票を成功させるため、決定された方針に従いそれぞれの活動を進めていた。三月一八日から二五日までは団体交渉の報告と体制確立をはかるため執行委員の第三次職場進出中であり、極めて多忙な時期にあつた。この中で、組織部員としての申請人は各支部役員を決定に従つて指導し、さらには職場に出向き一般組合員の総意を集約して組合の団結と統一をはかる重要な任務を負つていた。

(五)  中央委員会における採決の状況

組合の議事規程によれば、中央委員会の議事及び運営は大会に準じて行なうものとされ、大会の表決は無記名投票を原則とし、議長が大会の承認を経た場合に起立または挙手によることができるものとされているが(第一二条、第四八条)、統制処分の表決方法についての特則はない。

申請人に対する裁定委員会の判断が審議された第四三回中央委員会において、議長は右議案の表決に際し、起立採決によること、その結果僅少差で判定がつきかねるような場合には賛成、反対ともに数を確認するが、どちらかが圧倒的多数で判定が容易な場合には少ない方の数を明確にする形で処理したい旨発言し、別段異議がなかつたので、まず賛成者の起立を求めたところ、一見して可決に必要な三分の二を超える圧倒的な多数であつた。そこで、賛成者の数を確認せずに、次いで反対者の起立を求めてこれを一六名と確認し、さきの討論段階において修正意見等もなく、起立の状況からも賛否留保者はないものと見受けられたので、議長は反対者の数を総表決参加者数から控除し、賛成二八〇、反対一六と発表して可決を宣言した。なお、従来組合の会議において採決の方法につき疑義ないし不服がある場合には直ちに異議が出ていたのに、議長のこの処置に対しては何ら異議の申出はなかつた。

二  そこで、本件統制処分を無効であるとする申請人の主張を中心に検討する。

(一)  まず、申請人は中央委員会が裁定委員会の判断を可決するに際し起立採決の方法をとり、賛否留保者を賛成者として取扱つた手続上の違法があると主張する。

もとより統制処分の可否についての表決は無記名投票によることが最も望ましいところであるが、前記一(五)認定のとおり議事規程上そのような特則はなく起立採決の方法によることも許されており、現に議長が中央委員会の承認を経てこれによつたものと認められるので、この点に関する手続上の違法はない。また、このような三分の二以上の賛成を必要とする重大な議案の表決については賛否それぞれの数を正確に確定することが要請されるのであり、その意味で議長のとつた便宜的な処理の当否は甚だ疑問とせざるを得ないが、前記のように賛否留保者がほとんど見受けられず、たとえあつたとしても極めて少数で、賛成者の数が可決に必要な三分の二を超えていたことが明白であつた以上、賛否留保者の有無及び数を確認せず、これを賛成者として取扱つたからといつて、本件統制処分の効力に影響を及ぼすものではなく、申請人の主張は理由がない。

(二)  次に、申請人は裁定委員会の判断書の「三、処分されるべき事実」の記載には何ら「規約または機関の決定に反した」との事実が含まれていないのに、申請人を統制規程第二三条第一三項「その他、規約または機関の決定に反して組合の秩序を紊した者」に該当するとして統制処分に付したのは、何ら統制違反とならない事実を理由として統制処分をなした違法があると主張するので、判断する。

組合の統制規程第五三条は処分に該当すると判断した判断書には「処分されるべき事実、非違行為と認定する基礎および統制基準等を明示しなければならない」と規定しており、ここにいう「処分されるべき事実」とは統制規程第二〇条ないし第二五条所定の当該統制違反行為の構成要件該当事実を指し、これを判断書の一項目として漏れなく記載することを要求する趣旨と解される。しかしながら、労働組合内部の秩序維持を目的とする統制手続において刑事裁判等と同程度の手続的厳格さを期待することは困難であり、またそれほどの必要もないというべきである。従つて刑事判決書のように、判断書中の「処分されるべき事実」の記載に構成要件の一部でも欠けておれば直ちに当該統制処分が無効となるものと解すべきではなく、判断書中の「非違行為と認定する基礎」その他の記載と相まつて当該構成要件該当事実を疑義の余地のない程度に明確に把握できるときには当該統制処分の効力には消長を来たさないものと解するのが相当である。

右の観点から本件についてみると、申請人の指摘するように前記第二の五の本件判断書第三項「処分されるべき事実」の記載のみからはどの規約または機関決定に違反したのか不明といわざるを得ないが、判断書第二項「事実の経過」及び第四項「非違行為と認定する基礎」の記載をあわせ考えると第四〇回中央委員会の決定を指すことが明白であるから、申請人主張のような違法は存せず、本件統制処分を無効ということはできない。

(三)  申請人は第四〇回中央委員会の決定は職員の大量解雇を含む北九州市の合理化政策を実質的に支持する立場を表明したもので、「われわれは、友愛と信義と労働者階級の良心にもとづく固い団結を基礎に(中略)自主的な組織を確立する」「われわれは、日本のすべての労働者および民主的な組織と、信頼と理解のもとに提携し、積極的に統一と団結とその組織の拡大強化のために努力する」「組合は、綱領の本旨に則り、組合員の団結によつて、労働条件を維持改善し、社会的、経済的地位の向上をはかり……」という組合綱領及び規約の根本精神に違反するから無効であると主張する。

疏明資料によれば、組合は北九州市政に対する取組みとして合理化をやむを得ないものとの基本的態度に立ち、昭和四一年の北九州市労使紛争の際にとつた方針、その後の経緯、組合員の大多数が北九州市民である関係などから、合理化反対の地域共闘に参加しないことが組合の団結と秩序を維持強化し、かつ組合の社会的地位の向上に役立つ、すなわち右規約第四条の目的達成のため有益であり、かつ綱領の本旨に則るとの判断に立ち、第四〇回中央委員会の決定となつたことが認められる。そうだとすれば、右判断の当否は別として、右決定は組合及び組合員を拘束し、組合員をその統制下に置くものといわなければならない。その意味では右決定は有効であり、申請人の主張は失当というほかない。

(四)  申請人は第四〇回中央委員会の決定は組合が組織として共闘に参加しないという宣言的趣旨を持つにとどまり法的効力を有しない、仮りに何らかの法的効力があるとしても組合のみを拘束し個々の組合員に対する拘束力を有しない、そもそも労働組合の統制権は組合員の固い団結なしには労働者の経済的地位の向上等の目的を達成できないところから認められているのであり、右決定のように労使対等を貫くための直接労使間の問題でもなく、また使用者に対する団体行動にも関係せず、必ずしも組合員の地位向上にとつて意味があるとはみえない消極的方針については統制権は発生しない、仮りに発生するとしても右の趣旨から統制権の及ぶ範囲は組合員が組合の業務執行行為または組合活動として参加した場合に限られるべきであり、申請人の行動はそのいずれにも該当しないから、統制権は及ばないと主張する。

第四〇回中央委員会の決定が組合の団結と秩序を維持、強化し、社会的地位の向上を目的として行なわれたものであることは前記(三)のとおりであり、このような労働組合本来の活動分野について組合の機関が方針を決定した以上、組合のみならず、組合員個人に対しても拘束力を有することは当然である。この点に関する申請人の主張は理由がない。また、労働組合の統制力といつても対使用者との関係において団体交渉とか争議行為を行なう場合には最も強く、その本来的な作用を発揮するが、その中心を離れるに従つてその力が弱まることは否定できない。この点は直接使用者との関係ではない右決定についても同様であるが、地域共闘に参加しないとの消極的方針だからといつて、組合の団結の維持、強化に意味がないわけではなく、統制権が発生しないとの主張は理由がない。

もつとも、右決定は組合の市政に対する取組みとして強調され、組合員の市民一般としての生活利益の擁護伸長という面を打ち出しているようにも見えるので、組合員の一市民としての、あるいは一政党員としての行動にまで統制権が及ぶものであるかどうか疑問の余地がないではない。しかし、少くとも申請人のように組合から相当額の給与の支給を受け機関決定に従つて支部役員および一般組合員を指導すべき組織上の重要な地位にある専従執行委員が前記のように直接の使用者に対する闘争態勢下の繁忙期に中央委員会決定の趣旨に反し無断欠勤して地域共闘の集会に参加することは許されないものである。

しかるに、前記一(三)のとおり申請人は三月二五日組合書記長の承認を得ずに無断欠勤して北九州市議会前での集会に参加したものであり、第四〇回中央委員会の決定に違反することは当然といわなければならない。

(五)  申請人は申請人の行動は社会党員として北九州市合理化政策に反対する党北九州総支部の具体的な指示のもとになされたものであり、また北九州市在住の一市民としての請願権の行使であり、あるいは組合業務から解放された休日及び欠務中の行動であるから、いずれにしても組合の統制権の対象とはならないと主張する。

申請人の当日の行動が社会党員として党支部の指示、指令によるものであつたことは申請人主張のとおりである。しかし、政党活動といえども無制限のものではなく、組合に加入している以上、一定の制約を受けることがあり、前記のように本来の組合業務を無断欠勤して執務時間中に行われた場合に組合の統制に服することは当然といわなければならない。このことは仮りに申請人の行動が北九州市在住の一市民としての請願権の行使にあたるとしても同様である。また、組合業務から解放された就業時間外の行動であつたとの主張は前記のとおりその前提を欠き、いずれにしても申請人の主張は失当というほかない。

(六)  組合規約第八条は組合員の義務として「組合の綱領、規約を遵守し、組合の健全なる発展のために協力すること」「各級機関の決定および統制に従うこと」と規定しており、殊に申請人は執行委員として組合の正式機関の決定に従うべきことは当然である。しかも、当時組合としてはスト権確立のため活動を進めている最も重要かつ多忙な時期にあり、このような時期に執行委員としての本来の業務を放棄し、機関決定に違反して集会に参加したことは組合員に悪影響を及ぼし、組合の団結と統一、さらには春闘への意思結集に好ましくない影響を与えたものといわざるを得ない。

そうだとすれば、統制規程第二三条第一三項「その他、規約または機関の決定に反して組合の秩序を紊した者」を適用して権利停止一年に処した本件統制処分は違法とは云えない。

(七)  申請人は本件統制処分は従来他の組合員の統制違反行為に対してとられた措置と著しく均衡を欠き統制権の濫用であるとして過去において統制処分に付されなかつた八つの事例を挙げ、組合内部には少数派である申請人及びそのグループに対しては厳しく処分しようとする動きがあり、本件を好機として申請人を執行委員から除外しようとしていることは明白であると主張するので、判断する。

疎明資料によれば、統制違反になるかどうかは別として、ほぼ申請人の挙げるような事例があつたことが認められる。しかし、その中には、市長選挙に際し組合長が特定候補の推薦演説をした事件のように組合の統制権が及ばないと考えられるものや具体的な事情が明らかでないため統制違反行為になるかどうか直ちに断じがたい事件もあり、情状に関する疎明も不十分といわざるを得ない。春闘批准投票に関する不正事件や春闘スト中止署名事件はその性質上組合の団結権、争議権等を直接侵害するおそれがあるものとして無視できないが、前者は謝罪、是正措置などがとられており、後者はその内容が明確でない。

また、政暴法反対闘争時に組合教宣部長が民社党支部教宣部長の資格で会社の門において政暴法賛成のビラを配布した事件は、組合幹部の行為であり、かつ政党活動である点において申請人の行動に類似する面があるとも考えられるが組合業務の就業時間外であることは申請人の場合と異る。その他、処分にあたつては事件後の本人の態度も無視できないところ、申請人は終始無断欠勤して地域共闘の集会に参加したこと自体の非を認めていない事情もあり、一概にこれらの事案の性質だけから処分の軽重を論ずることもできない。

そもそも、労働組合が内部の秩序を紊した者に対して正式の統制手続に付するか、あるいは非公式の指導ないし注意程度にとどめるか、さらに統制手続に付した場合にどの程度の処分にするか等、組合内部の規律と秩序の維持に関する事項はその組合の自主的な統制に委ねるべきであつて、裁判所は特に著しい行き過ぎのない限りこれに介入すべきではないと解する。

疎明資料によれば、組合内部に左右の対立があり申請人が少数派に属していること、多数派が少数派に対し顕著に優勢を占めていることが一応認められるが、前記過去の事例等とあわせ考えてもいまだ本件統制処分に特に著しい行き過ぎがあつたことの疎明がないものといわざるを得ない。

三  結論

以上のとおり本件統制処分が無効であることを前提とする申請人の本件仮処分申請はその被保全権利の存在につき疎明がないことに帰するところ、保証をもつて右の疎明に代えさせることも相当でないので、必要性の点について判断するまでもなく、申請人の申請を失当として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 松村利智 石川哲男 安井正弘)

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